教育者から見た子育て

教育者から見た子育て

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自然環境に恵まれた、常陸太田市。野山には草木が生い茂り、動植物に昆虫、川には魚も多く生息しています。信州大学の平野吉直教授が小学4~6年生を対象に行なった調査によると、野山や川など自然の中で多くの活動をして育った子どもには、課題解決能力や豊かな人間性など「生きる力」が養われるようです。
子どもの心と体を育てる自然が豊かにある常陸太田市ですが、生活様式や社会情勢の変化に伴い、子育ての在り方と自然環境も変わってきています。
今回は、常陸太田市在住で、38年間、小・中学校の教師として、多くの子どもたちと接してこられた川松博先生に教育者としての経験に基づく、子育てと子どもたちとの関わり方についてお伺いいたしました。川松先生は現在、常陸太田市生涯学習センターが主催する「親子自然探索サークル」の指導員であり、委員長を務められています。

■時代の変化と子育ての在り方

~長年、教育者として子どもたちと関わるなかで、時代や環境の変化と現在の子育てについて、どうお考えですか?

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昭和、平成、令和と時代とともに、家族構成や家族の在り方は変わってきました。現在では、核家族化が進み、育児に父親が参加するようになりました。しかし、子育ての方法や環境に変化があっても、家族・学校・地域、つまり、社会全体で子どもを育てることに変わりはありません。
子育ての根本は家族に置かれていて、その理想の形は、家族、学校、そして、地域が互いに責任を持って「子どもたちを育てる」べきだと考えます。

家族は共同体の最小単位。学校では年齢差のある子どもたちがともに学び、地域は子どもからお年寄りまで、年齢も立場も違う縦社会に揉まれ、子どもに、自分も地域、そして、社会の一員としての意識を育てる。それが、子育てにおける地域の役割です。ところが近年、子育てにおける地域の役割が薄れてきてしまっている。これは、大きな問題で、取り組むべき課題でもあります。

■「かける」愛情と言葉が子育ての須要

~子育てに対する考え方は各家庭でそれぞれですが、特に意識すべき大切なことは何ですか?~

子育てで最も大切なことは、親が子どもにかける「愛情」です。「愛」と「情」のたった2文字ですが、様々な形があります。ただ甘やかして、子どもの言うことを聞くのが愛情ではありません。
例えば、子どもが一生懸命に取り組んでいることで、良い結果を出せたとします。その時は、褒めて、努力を認めてあげる。失敗をしても、今後どうすれば改善できるかを一緒に考える。そして、親が子どもを「〇〇しなさい」とコントロールするのではなく、子ども自身が、自分の方向性を見つけられるように親が導いてあげることが大切です。だだし、子どもはそれぞれ個性があります。三者三様、その子に応じた愛情のかけ方を探さなければなりません。
子どもよりも長く生きている親には、その年の差分の役割があります。まずは、どんなに忙しくても毎日、親から子どもに話かけてみてください。「どうした、何かあったか?」と気にかけてあげる。毎日の小さな会話の積み重ねで愛情が伝わり、親子の信頼関係もより強くなるのではないでしょうか。
子育てをする中で子どもに「愛の手を差しのべる」、それが「愛情」です。

■子どもの話を聞く・伝える・理解する

~子どもが何かを伝えようとしています。ただ、それが分からず、もどかしい時、どのように対応しますか? ~

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子どもと接していると、その子が何を言いたいのかよく分からないことがあります。そういう時は、とにかくその子の話をよく聞いていあげることと、「分からない」を相手にハッキリと伝えます。その上で、もう一度、どこが分からないのかを指摘し「もう少し分かりやすく言って」と改めて伝えます。また、「どうすれば、みんなに分かってもらえるかな?」と考えさせたりもします。いずれも、子どもが伝えたいことを想像して、少しずつ焦点を絞る感覚です。そして、言いたいことが理解できたら、「よく分かったよ」と認めてあげるように心がけています。それは、同時にその子の自信にもつながります。

■子どもの感情に訴えかける

~子どもたちに大切なことを伝えたいとき、そこに興味と感心を抱かせるために、どのような工夫をしていますか?~

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子どもたちに興味と関心を持たせる方法を2つ紹介いたします。
まずは、動植物の実物を見たり、触れたりすることで、子どもは「凄いな」「不思議だな」「面白いな」と様々な感情表現をします。そして、「これからどんな成長をするだろう」と疑問がでてきます。子どもに何かを「感じさせる」ことが興味と関心を持たせるきっかけになります。

次に、何か新しい発見ができる「仕組みづくり」も効果的です。例えば、史跡や蔵など、古い町並みが残る鯨ヶ丘の探索では、「これから向かう鯨ヶ丘の地形は、鯨が海に浮いているような形をしているよ。じゃ、鯨の頭ってどっちを向いている?」と問いかけて、「探索コースにヒントがあるからね」と伝えれば、子どもたちはよく観察するようになります。

■子どもと親、地域をつなぐ「親子自然探索サークル」

~年間を通じて全10回、定期的に活動されている「親子自然探索サークル」ですが、その内容と目的はどのようなものですか?~

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現在、指導員を務める「親子自然探索サークル」は、親子が一緒に自然探索や文化財・史跡を巡り、触れ合いを深めながら豊かな自然がある常陸太田市への郷土愛を育んでもらうことを目的に活動をしています。
主な活動内容は、3つあります。

6月11日に開催した、ホタル観察のように、動植物や昆虫を観察する自然探索活動。
次に鯨ヶ丘の探索や文化財・史跡を巡る史跡探訪活動。そして、野山に生えているクサボウキ、(コウヤボウキ)でのホウキ作りなど、自然のものを使った創作活動です。
このサークルは、常陸太田市内全4地区から親子が参加しますので、様々な地域の参加者との繫がりもできます。そして、親子で一緒に自然を探索したり、市内の文化財・史跡の探訪を通じて、ふるさと常陸太田に愛着を持ってもらいたい。その思いが根幹にあります。

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また、サークルの活動を通じて、我々指導員も子どもたちから多くのことを学びます。
特に、子どもの発想と感性の豊かさには驚かされます。例えば、子どもと同じ草花の観察にしても、大人は知識から固定観念で見てしまいがちです。ところが、子どもは色々な角度から観察をします。花を最初に見る子もいれば、根を探ったり、葉っぱに触れたりと「多面的」に捉えようとします。この観察眼と好奇心、そして、多面的に物事を見たり判断したりすることの大切さに気づかされます。

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時代が変わっても根本的には変わらない「子育て」と「親と子」の関係、そして、「愛情」の大切さと子どもとの接し方をお伺いいたしました。
少子化の影響で、子どもたちと地域の関わりが希薄になってしまっているのが現状です。そんな状況にあって、川松先生が委員長を務める「親子自然探索サークル」は、常陸太田市内の広範囲の地域から親子が参加する行事です。楽しみながら自然に参加者同士が交流できる機会は、子育てにおける「地域」の役割を補う1つの答えではないでしょうか。

※親子自然探索サークルの募集は、毎年4月に行っています。詳しくは、常陸太田市生涯学習センターにお問い合わせください。

取材協力
常陸太田市生涯学習センター
住所:〒313-0061 常陸太田市中城町3280
電話:0294-72-8888
開館時間:9:00~22:00
休館日:月曜日、年末年始(12月29日~1月3日)
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