「一緒に楽しもうね」という気持ちで読んでいます
幼児から高齢者までを対象に、2011年から茨城県内外で絵本の読み聞かせ活動に取り組む「読み聞かせ屋サチエ」さん。その原点には、東日本大震災の直後に行った保育園での読み聞かせがあり、子どもたちの輝く笑顔を見たことによります。「子どもの好きな本を選び、友達のように迎えてほしい」というサチエさんに、絵本の読み聞かせで心がけていることや子どもへの読み聞かせのコツ、おすすめの絵本について伺いました。
◇舌がんを克服、コンクールで優勝
リブロひたちなか店での定期的な読み聞かせをはじめ、書店や絵本関連のイベント、図書館や学校、子育て支援の場などさまざまな場で絵本の読み聞かせをしてきました。残念ながらコロナ禍で2年前から対面での読み聞かせが難しく、現在はユーチューブで、著作権の問題がない作品や青空文庫、子ども向けの昔話を朗読しています。
実は6年前に舌がんを患い、舌の4分の1を切除しました。お医者さんからは「(読み聞かせ活動をするのは)難しい」とまで言われましたが、練習を重ね、周りの人から「言われなければ分からない」と言われるまでに回復しました。自分でも実力を確かめたくて、過去に優勝経験があった県立図書館主催の読み聞かせコンクール(令和3年度)に応募し、名前を本名から「読み聞かせ屋サチエ」に変え、病気のことも隠してエントリーしました。これまでの経験を伏せて挑んで、結果は優勝。このことで、ようやく今の自分の読み聞かせに自信を持つことができました。
◇こわばった表情が読み聞かせで笑顔に
絵本との出会いは、30代前半のころ。仕事でもプライベートでも「結婚して子どもを生むのが一番」と言われ、何でも年齢に結び付けられることに閉塞感を感じていた時期でした。そんなとき、ふと本屋さんで手に取った絵本が『だってだってのおばあさん』でした。「だってわたしは98だもの」が口ぐせのおばあちゃんが、誕生日ケーキのろうそくが5本しかなかったことをきっかけに、「5歳になるわ」と魚つりや遠出にはつらつと行動するようになるお話です。年齢も思い込みという内容にハッとしました。「絵本って大人が読んでも気づきがある」と興味がわき、人に読んでみたいと思うようになりました。
ちょうどそのころ、絵本を載せて全国を訪問するキャラバンカーのスタッフの募集があり、応募したところ、トントン拍子で参加が決まりました。ところがその直後に東日本大震災が発生。初めての読み聞かせの場は震災からわずか1ヶ月後の4月、常陸太田市の保育園でした。福島県やほかの保育園から避難している子もおり、みんなこわばった表情をしていました。ところが一冊一冊読んでいくうちに子どもたちがすごく笑顔になったんです。そして読み終わった後、保育士さんが「子どもたちが震災後はじめて笑ってくれた」と涙ながらに言ってくれました。「絵本ってすごい」と実感しました。
◇絵本の世界を理解し、声を乗せる
子どもに読み聞かせをするときは、私自身が本当に好きな本、楽しいと思っている本を選ぶようにしています。しっくりこない本だと、子どもは敏感なので伝わります。いつも「こんないい本見つけたよ。一緒に楽しもうね」という気持ちです。
読むときは、子どもの表情を見ながら語りかけるようにしています。あくまで絵本が主役で、登場人物の感情を私が伝えるような感じです。感情を込めるというと、リアクションを大きくするとか抑揚をつけるとか思われがちですが、そうではありません。事前に何度も読み込み、絵本の世界を理解して、登場人物のバックグラウンドまで自分なりに把握する。そうすることで自然に話し方が見えるので、そこに声を乗せるという感じです。さらに絵本の登場人物について、子どもから「その子って何やってるの?」と聞かれたとき、読み込んで理解していれば、絵の中にバットがあるから、「野球をやっているんじゃないかな」と応えることができる。そうすると、子どもも納得してくれるんです。
◇仲よしの友達を迎えるように絵本を選んで
おうちの方がお子さんに絵本を読み聞かせるときは、ひざに抱っこしたり、一緒に寝ころがったりしながら、体がくっつくような距離で読んでほしいです。それがアタッチメントの機会になり、愛着が育まれることにつながります。それから教育のためにたくさんの絵本を読んでいるという話を聞くことがありますが、それよりも単純に楽しいものとしてとらえてほしい。そして1冊でいいので、お子さんが選んだ好きな本を読んであげてほしいです。「たくさん絵本を買っているのに同じ本ばかり読まされる」と悩まれる方もいますが、それはその子がその本の世界を大事にしているから。大変かもしれないけれど、その場合、何度でも同じ本を読んであげてほしいです。また絵本に年齢制限はありません。本の後ろに「何歳から」と書いてあっても気にしないでください。子どもが読んで「これがいい」と思ったものが一番です。絵本を選ぶときは、仲のいい友達を一人うちに迎えるという風にとらえてもらえるといいなと思っています。
◇読み聞かせの楽しさ、伝えたい
今後の活動については、まずはコロナ禍が収束して、今まで通りの読み聞かせができるのが一番ですが、さらにもっと県外でも活動したり、読み聞かせを教えることにも積極的に取り組んでいきたいですね。以前、高校の授業で読み聞かせをしたことがありますが、高校生がまるで小さな子どものように笑い、「自分もやってみたい」と喜んで絵本を読んでくれました。声を出して絵本を読むのは、心にもいいと思います。そして一冊の本も10人いれば10通りの読み方があります。忙しくて時間のない親御さん世代の方にも、ぜひ絵本を読み聞かせる楽しさを伝えていきたいです。
◇読み聞かせ屋サチエさんが、親子で楽しむことを念頭に選んだ3冊の絵本を紹介します。
この3冊は市立図書館で借りることができます。
『おへそのあな』
作:長谷川義史
出版社:BL出版
お腹の中の赤ちゃんは、お母さんのおへその穴から外の様子を見ています。家族も世界も赤ちゃんの誕生に胸を踊らせているようです。最後のお腹の中の赤ちゃんからのメッセージが胸に響きます。
『てをつなぐ』
作:鈴木まもる
出版社:金の星社
僕がお母さんとつないだ手は家族とつながり、やがて大勢の働く人から世界中の人、地球上に生きる動物達へとつながった!地球の上では皆が同じ。僕は世界とつながり生きている。この時代に読んでほしい、あたたかく力強いお話です。
『うえきばちです』
作:川端誠
出版社:BL出版
うえきばちに「のっぺらぼう」を植えました。すると、めがでてはがでてはなが!それからどうしたかは読んでのお楽しみ。想像をこえてくる不思議な展開と同音異義語の言葉遊びが楽しい一冊です。